大腸がんの手術後に鍼灸治療を活用する養生灸のススメ

category : 鍼灸治療 2012.1.15

鍼灸治療では

近年、大腸がんの死亡者数が増えてきています。年間で2万2000人亡くなっており、この勢いで増えると、10年後には男性では肺がんに次いで死亡率の2位に、女性では乳がんとともにトップに並ぶとまで言われています。このような増加は我々の食生活が欧米化されてきているためで、決して他人事とは言えません。そこで、今回は大腸がんの患者さんに対してどのように鍼灸治療が生かせるのかについて考えていこうと思います。

まず、大腸がんはがんの一つですので、鍼灸で治すということはできないでしょう。やはり手術が治療の基本となります。検査の結果、早期のがんなどであれば内視鏡治療を行いますし、それが難しければ手術を行います。また、転移や再発の場合には抗がん剤などを使った治療をしていきます。

鍼灸治療はがんそのものを治すことはできませんが、がんの患者さんにとっては非常に助けになる治療法です。今回は大腸がんのための手術を受けた後のケアとして、鍼灸がどのようなことを行えるのかについて考えてみましょう。

手術後の患者さん

先ほどもありましたが、大腸がんの治療は手術が基本になります。手術の方法や切除する範囲は、大腸がんの進行度(ステージ)や「結腸がんか、直腸がんか」などによって変わってきます。しかし、治療の内容としては「大腸を切除する」ということなので、大腸の働きに変化が出てきます。

人間の体は口から食べ物を食べて、胃で消化し、小腸で栄養を吸収し、大腸で水分を吸収し、肛門から便として出しています。この流れはそれぞれがスムーズに働いているといいのですが、どれか一つでも働きが悪くなると全体がくるってしまいます。

大腸は水分を吸収するというのは、小腸で栄養を吸収したあとのものから水分を取り除き、便として出しやすいようにしているのです。水分を取ることで、便の体積が減り、腸の中に在る不要な物質を出せるのです。しかし、大腸がんになり手術を行うと、大腸の一部を20~30cm切り取ってしまいます。すべての大腸がなくなるわけではないのですが、それでも水分を吸収する力は減ってしまうので、便が水様便になったり、場合によっては泥状便になることもあります。要するに下痢に近い状態の便が出やすくなるのです。

水様便になると、まず肛門に負担がかかります。下痢をしたことがあれば経験があるかもしれませんが、水っぽい便が続くことで肛門が荒れてしまうのです。場合によっては肛門が切れたり、痔になったりすることもあります。こうなると、気分よく排便するというわけにはいきません。

排便がうまくいかなくなると、全体の働きが崩れてきてしまいます。そのため、食べ物をおいしく食べることもできなくなり、体力が消耗してしまいます。そうなると、さらに体の力も落ち、余計に大腸の働きも弱まってしまいます。体力がなくなるということは、がんの再発する危険性も高くなってしまうでしょう。

そこで、鍼灸治療では少しでも便の状態をよくして体に元気を取り戻すような治療を行っていきます。便の状態がよくなり、肛門の荒れも改善されれば食欲も出てきますので、体の調子もよくなります。1回2回の治療ではなかなか改善しませんが、根気よく治療を継続していくことで、生活の質(QOL)も上がってきます。

水様便を改善する

大腸の働きが弱まり、水様便になっているわけですが、大腸がすべてなくなっているわけではありません。水様便を改善するためには残っている大腸の働きを十分に引き出してやることが大切です。そこで、鍼灸治療を行うときは大腸によく効くツボを中心に使用していきます。

大腸の働きをよくするにはおなかのツボが有効です。「関元(かんげん:へその下3cm)」や「天枢(へその横1.5cm)」がいいでしょう。大腸がんの手術で開腹手術を行った患者さんは当然おなかに傷があります。そのため、腹部に鍼や灸をしてはいけないと考えている人もいます。しかし、基本的には鍼や灸は問題ありません。傷口に鍼をするわけではなく、ずらしてするので、安全です。これらのツボに鍼をやさしくおなか全体の響くように行うことで、大腸の働きを良くしてくれます。

また、開腹手術の傷痕が手術後も痛む患者さんもいますが、傷口のまわりに鍼や灸を行うと痛みがマシになり、治りも早くなります。ほとんど知られていませんが、鍼灸治療を行うとこのような傷の治りはよくなるので、併せて治療していくとよいでしょう。

ほかにも大腸の働きをよくするツボがあります。遠隔部のツボとしては「曲池(きょくち:肘を曲げてできるシワの外端)」や「下巨虚(げこきょ:膝蓋骨から足首までの中間で脛骨の外1.5cm)」がよく効きます。これらのツボは鍼もいいですが、灸もよい効果があります。自分でも灸をしやすい部位ですので、毎日灸を5壮ずつ行うのがよいでしょう。灸が難しいという場合には、せんねん灸をしてもいいでしょう。継続していると大腸の働きがよくなります。

このように大腸の働きをよくする以外にも水様便を改善する治療をしていきます。大腸が水分を吸収しきれずに水様便になってしまうので、その分の水分を尿として出すことができれば大腸は吸収しやすくなり、水様便も改善しやすくなります。そのため、尿が出やすくなるようなツボを使って治療していきます。

まずは「失眠(しつみん:かかとの中央)」というツボがよいでしょう。このツボは水分代謝が悪くなっているとき灸をしても熱さを感じにくくなります。そこで熱さを感じるまで何壮でも灸を続けていきます。場合によっては何百壮とすえることもあります。この失眠の灸を続けていると次第に尿が出やすくなります。尿の出がよくなり、水分代謝の働きが正常に近づくと灸の熱さも感じやすくなるので、これも根気よく続けましょう。

ほかにも「次髎(じりょう:正中線の外1.5cmで骨盤の高さの中央)」も尿が出やすくなる効果があります。またここは骨盤部ですので、大腸の働き自体も改善してくれます。ここも鍼と灸のどちらもが効果があります。よく行う方法として鍼を刺して、その鍼の持ち手に灸を付けて温める「灸頭鍼」があります。鍼の効果と灸の効果を同時に出せるので非常にいい治療法といえます。また、この骨盤部の血流を良くすることは肛門の荒れや痔に対しても効果があるのでぜひ行うとよいでしょう。

痔に対するツボとして、「孔最(こうさい:前腕部で肘関節から手首に向って指4本分下がったところ)」があります。この孔最に灸を毎日5壮しておくと、肛門の荒れも治まってきますので、こちらも続けて治療していきましょう。ほかにも肛門の状態をよくするツボとして「百会(ひゃくえ:頭の頂上)」などもあります。

まとめ

このように全身のツボに鍼や灸を行うことで、水様便を解消し大腸がんの手術後の生活の質を高めていきます。便の状態というのは、ほんの少しのことでも生活にかかわってきますので、非常に患者さんの助けになれると思います。また、便の状態をよくすることができれば、それ以外の症状も取れてくることも多く、快適な生活を送れるようになります。

また、反対に体にあるさまざまな症状を取ることで大腸の働きを改善することもあります。そのため、鍼灸治療を行うときは患者さんに今の状態、症状をかなり詳しく聴きながら治療をすすめていきます。薬などで体のさまざまな症状を取ろうとすると大変な量をのむことになりますが、鍼灸治療ではまとめて治療することができるのもいい点です。ぜひ一度ご相談ください。



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