高齢者のうつ病に対する鍼灸治療養生灸のススメ

category : 鍼灸治療 2011.12.22

鍼灸治療による対応

うつ病の患者さんは鍼灸院にもよく来られます。また、鍼灸院自体、高齢者の患者さんが多い傾向にありますのでその中にはうつ病やうつ状態の人がおられます。そこで今回は、高齢者のうつ病の患者さんに対する鍼灸治療の対応について考えていこうと思います。

症例

夫が他界した70歳・女性のAさんの症例です。

Aさんは夫と二人暮らしで、たまに夫婦で旅行などをしながら、楽しい毎日を送っていました。ところが最近になって、夫が病気で他界してしまいました。

葬儀は無事に行ったのですが、その後一人残されたAさんは、外出する気も起らず、家に閉じこもることが多くなりました。そのせいで足腰も弱っていきました。

ある日、部屋でつまずいて脚を骨折してしまったAさんは、入院生活を余儀なくされました。何とか、リハビリを行い退院することはできたのですが、家に戻ったAさんは「また外出するのが怖い」という思いから、ますます家に閉じこもるようになってしまいました。

やがてAさんは食欲が低下したり、夜中に目が覚めて眠れなくなったりすることが増え、これらの症状に悩まされるようになりました。そして、これらの症状は1か月以上も続きました。

様子をみにきたAさんの娘さんが、Aさんの異変に気づき、病院に連れて行くと「うつ病」と診断されました。また、Aさんは以前からある腰痛をよく訴えるようになっていたため、鍼灸院に相談されたので、在宅ケアに行くことになりました。

薬物療法と併用して

このようにAさんの治療に伺うことになりましたが、うつ病の患者さんは原則として薬物療法と並行して行うことになります。もし、娘さんが鍼灸院に先に相談に来ていても、うつ病の可能性を考えて一度、心療内科などへ受診するように促していたことでしょう。

うつ病は早期に治療を始めれば症状がよくなることが多いです。しかし、高齢者のうつ病には自殺の危険性が高いという危険性もあり、専門家に診てもらっておいた方がよいでしょう。今回は、先に病院を受診し薬物療法を開始していたので、鍼灸治療に保険を適用させるため、主治医に同意書も書いていただきました。

「鍼灸の治療費は高い」と思っている人が多いのですが、このように保険を適用して治療をすることも可能です。往療費も出ますので、安心してかかることができると思います。

鍼灸治療ではうつ病の患者さんを治療する場合、まず体の調子を整えることから始めます。「うつ病は心の病」と考えがちですが、体がよくならないと心がよくなるというのは少ないのです。

また、心と体は切っても切れない関係になります。例えるならば、お鍋のふたのように、一つのものなのですが見る角度によって、取っ手がついている面(体)が見えたり取っ手がない面(心)が見えたりしているようなものです。まったく同じものでも見る方向によって違ったものが見えてきます。そして、治療をするときも両方の視点から治療することが大切になるのです。

ですが、治療するときには体から治療していく方が効果が出やすいという面があります。お鍋のふたの例えを使うなら、取っ手のある面(体)のほうが取り扱いやすいというわけです。

症状を改善する

Aさんの治療では、まず食欲低下と不眠についてを改善する必要があります。きちんと食事をしてエネルギーを体に取り入れることができなければ、腰痛もうつ病もよくなりません。また、夜寝ることができなければ、体が疲労しきった状態が続くことになりますので、不眠も同時に治療する必要があります。

食欲低下には脾胃の働きをよくするツボを使用します。よく使うのは「足三里(あしさんり:膝の下3cm、脛骨の外1.5cm)」がいいでしょう。ここに鍼をするとその場で胃が動いてきます。胃の動きを改善することで、食欲が出てきますし、消化も良くなるので食べ物をおいしく食べることができるようになります。

また、食事を食べるには食べたものをきちんと出せる体でなければいけません。実際うつ病の患者さんでは便秘を訴える人が大勢います。そこで便通改善のツボも使用していきます。これは「関元(かんげん:へその下3cm)」がいいでしょう。ここは鍼もいいですが灸をするのも効果的です。特にAさんのように体力がなくなっている人は、下腹部の力が弱くなっているので、この部を刺激するのは体力を取り戻すためにも必要です。

お灸は直にやるのもいいですが、Aさんにも続けてもらえるように棒灸を勧めてみました。これは棒状になった灸で、先のほうに点火して皮膚から数㎝離して温かさを感じるように温めていく灸のことです。やけどの心配もなく安全にできるため、また、Aさん自身にも積極的に治療に参加してもらうために行いました。棒灸を続けていると便通も改善し、少しずつ体力が出てくるようになりました。

このように体力をつけていき、同時進行で不眠解消のツボも使用していきました。不眠には「失眠(しつみん:かかとの真ん中)」がよく効きます。この失眠には直接熱くなるまで灸をしていきます。通常であれば数壮すえれば「アチチ」となるものなのですが、不眠の人は灸をしても熱さを感じにくい傾向があります。熱さを感じない場合には感じるまで何壮でも灸を続けていきます。このように熱さを感じるまですえたことで、Aさんは少しずつ夜に起きる回数が減り、寝不足も解消されていきました。

腰痛の治療

さて、次は腰痛の治療についてです。「腰が痛い」と聞くとすぐに「整形外科に行かなくちゃ」となりがちです。しかし、実際には整形外科で分かる腰痛は腰痛全体の15%ほどであるといわれています。そのほかのほとんどはストレスなどによって起こるといわれています。Aさんの場合も、腰の骨に多少の変形はありますが、やはり一番の原因はストレスによるものです。

ストレスと簡単に言いますが、Aさんの場合、夫が亡くなったこともストレスの1つですし、不眠や食欲低下でご飯をおいしく食べられなかったこともストレスに含まれていました。そのために鍼灸治療では腰痛で治療を依頼されても、ほかの症状も合わせて治療していくのです。今回のAさんの治療でも食欲低下や不眠、便秘を改善していくことで腰痛をより早く改善するようにしています。

また、腰に治療することも大切です。うつ病の患者さんは体の不調をものすごく心配される傾向があります。Aさんも最初は少しでも腰に痛みがあれば「痛い痛い」と訴えていました。このようなケースでは何よりも「気持ちのいい治療」をすることが腰痛にもうつ病にもいいといわれています。

腰にある硬結に対して、細い鍼をやさしく刺して、ポワーンと気持ちがいい響きが出るように鍼をしていきました。また、温めるのも気持ちがよく、腰痛の改善になりますので腰にも棒灸を使用しました。このような治療を続けていると、腰の筋肉にもしなやかさが戻ってきて、次第にAさんも痛みのことをいう回数が減ってきました。

このように、体にあるさまざまな症状を改善し、薬物療法と併用して治療することで今ではAさんは一人で出かけるようにもなっています。また、うつ病は再発しやすい病気ですので、鍼灸治療は定期的に続けておられます。

在宅ケアの必要性

今回Aさんの治療についてみてきましたが、治療内容もそうですが、実際にお宅に伺って在宅ケアを行ったこともよかったと思います。

一般に「往診」というと、自宅に行き病気を治療することになりますが、在宅ケアは少し違います。その患者さんの生活を診て、それに合わせてさまざまなケアを行っていくことが大切になります。

Aさんの例では、極端に人との会話を行う機会が減っていたため、治療中や治療の後でもAさんから笑顔が出るような会話を心がけました。それによって、次第にAさんもよく笑うようになり、自分から外に出かける機会も作るようになりました。

このように、単に病気を治療することだけでなく、患者さんにとって必要なことを見極めて治療していくことで、うつ病の改善もできたのだと思います。

また、本人が外出する気になった場合、鍼灸院への通院やデイケアなどに行くことを勧めることもあります。このように、社会的なつながりを増やすことで治療後の再発予防にもなるでしょう。

まとめ

今回のような治療を行うことでAさんは非常に元気になられました。鍼灸では日常に起こるさまざまな症状にうまく対応する方法があるので、それがうまく使えました。これはほかの治療法では簡単にはできません。薬なら何種類の薬も飲まなくてはならないでしょうが、鍼灸治療だからこそよく対応できたと思います。

鍼灸治療が保険がきくこと、在宅ケアができることを知らない方も多くいますが、一度試してみるのもいいと思います。



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