入れ歯と鍼灸治療養生灸のススメ

category : 鍼灸治療 2011.12.5

鍼灸治療では

鍼灸治療を受けに来ている患者さんの中にも、入れ歯の問題を訴える方は多くおられます。当然入れ歯に問題があるのならば歯医者に行って調整してもらわねばなりません。しかし、入れ歯の調整にはある程度時間がかかるものです。その間痛みや不快感などが続くことも多くあるので、鍼灸治療によって痛みや不快感を取り除き、入れ歯の調整が終わるまで快適な生活を送れるように手助けしていきます。そこで今回は、どのように鍼灸治療を行っていくのかを考えてみようと思います。

症状に合わせて治療する

入れ歯が合わずに使っていると、さまざまな症状が出てきます。多くは痛みとして現れることが多いでしょう。痛みなどの不快な症状があると、食べ物もおいしく食べられなくなってしまいますので、歯科の治療と並行して患者さんが訴える症状を治療していくことになります。

よくある症状ごとに考えてみましょう。

歯茎の痛み

入れ歯が合わない場合、その合っていない部分と歯ぐきが触れるところで痛みがでることがあります。この痛みを軽減するように鍼や灸をしていきます。

最初に歯ぐきのどこが痛むのかをしっかりと確認しておきます。上下左右のどこが痛むのかはその時の患者さんによって異なるからです。

痛みをとるための方法として最も一般的なものは、痛む部位に鍼をすることです。歯の場合は、直接歯ぐきに鍼をするわけではなく、顔の皮膚表面で一番痛むところに鍼をします。例えば、右下の歯ぐきが痛むなら顎のあたりを押さえてみて一番圧痛があるところに鍼します。深く刺す必要はなく、2~3mmほど刺して、鍼を刺したまま10分ほど置いておく「置鍼」という手技を行います。

実際に鍼をすると思った以上に痛みが軽減することが多く、その間に患者さんは歯科で入れ歯の調整を済ませれば苦痛なくすむことになります。しかし、顔に鍼をするのが怖い人や痛みが強く顔を触ることができない人には、手足のツボを使って治療することもあります。

人間の体には、ツボの流れる路(みち)として「経絡」というものがあります。歯ぐきにも経絡の通り道があり、その経絡上にあるツボを使うと痛みが軽減することがあります。面白いことに、上下の歯ぐきで違う経絡が通っているので、上下どちらが痛むかで使うツボを変えることがあります。

上の歯ぐきには「足の陽明胃経」が通っており、この胃経は目や歯から首を通り、体の前面(胸やおなか)を通過して、足の第2指まで流れています。そのため、上の歯ぐきが痛いときは、脚のツボで「足三里(あしさんり:膝の下3cm、脛骨の外1.5cm)」などを使用することがあります。この足三里は前脛骨筋という筋肉のところにあり、上手に鍼をすると気持ちの良い響きが出ます。

下の歯ぐきには「手の陽明大腸経」という経絡が通っています。この大腸経は人差し指の爪の横から腕を上に上がり、首を通って歯のところまで来ています。下の歯ぐきが痛むときはこの大腸経のツボを使うことがあります。よく使うツボに「合谷(ごうこく:手の甲で、親指と人差し指の骨が交わるところ)」や「手三里(てさんり:肘のしわの外側から指3本分下)」などがあります。特に合谷は顔面部の疾患に対して非常によく効くツボで効果が高いです。これらのツボも気持ちよく響くように鍼をします。灸は半米粒大で行います。

このように手や足のツボを使っても歯ぐきの痛みを軽減することが可能です。上下の歯ぐきで使うツボを上げましたが、両方合わせて使用することも多くあるので、難しく考えずに使ってみて効くかどうかを試してみるとよいでしょう。

頭痛

さて、入れ歯が合わなくなってきたときに歯ぐき以外でも痛みが出てくることがあります。特に頭痛は多くの患者さんに出る症状です。

頭痛が起こる理由としては、歯ぐきの痛みが頭の方まで放散している場合があります。なかには、歯ぐきにはまったく痛みがないのに頭に痛みが起こることもあり、気をつけねばなりません。この場合には頭痛としてだけでなく、歯ぐきも治療していく必要があります。

そのほかに、噛みあわせが悪くなったりすることで、食事のときにいつも以上に力を入れて噛んでいることが原因となって頭痛が起こることもあります。この場合はものを噛むために使う筋肉が酷使されて痛みが出てきますので、その筋肉を特定して鍼や灸で緩めるようにしていきます。

ものを噛むときによく使う筋肉として、「咬筋」や「側頭筋」などがあります。特に側頭筋などは耳の少し上にある筋肉で、痛みが出ると頭痛として感じますので注意しなければいけません。側頭筋には「頷厭(がんえん:こめかみの上で髪の生え際)」などがよく効きます。この側頭筋は頭蓋骨につくように平べったくなっている筋肉ですので、鍼を刺すときも皮膚に沿わすように横向きに刺していきます。咬筋には「客主人(きゃくしゅじん:耳の前1cmで、口を開けるとへこむところ)」がいいでしょう。ここは内部に咬筋があるので細い鍼を慎重に刺していくと響きが出てきます。

これらのものを噛む筋肉が緊張することは「顎関節症」にもつながりますので、顎関節症を防ぐ意味も込めて治療していくことが望ましいでしょう。

首や肩のこり

そのほか、入れ歯が合わないときは頚部や肩が凝ってきます。不思議なもので入れ歯が合わないために肩こりが起こったのに、入れ歯を調整し終わっても肩こりが続いてしまうことがあります。そのため、歯の痛みなどと合わせて頚や肩に対しても鍼や灸をしておくとよいでしょう。

使うツボは「天柱(てんちゅう:頚椎の外1.5cm、髪の生え際)」や「肩井(けんせい:頚椎と肩関節の中間)」などがよく効きます。また、患者さんが自分のどこが一番つらいかを分かっているときは、その部に鍼をするとスッと楽になることが多いです。

また、頚部の前側のツボも使うことがあります。入れ歯が合わず不自然な噛み方をしているため、胸鎖乳突筋がカチカチに硬くなってしまうためです。「人迎(じんげい:のどぼとけの外1.5cm)」などがいいでしょう。

唾液の出をよくする

総入れ歯は唾液によってあごの粘膜とくっついています。しかし、年とともに唾液の分泌量が少なくなり、それによって入れ歯に不具合がでることもあります。そこで、唾液がよく出るように治療することがあります。

頬車(きょうしゃ:あごの角の1cm前)」などは唾液の出を良くしてくれます。細い鍼を浅く刺して置鍼するとよいでしょう。

唾液の出が少なくなると、夜寝るのも口やのどが渇いて眠れなくなりますので、高齢者に対しては特に有効です。

歯科と協力

私が鍼灸学校にいたときには、鍼灸治療を歯医者でもやっているという歯科医の先生がいました。鍼をすると痛みが取れ、筋肉の緊張も緩み、歯ぐきの血流もよくなるので、まず体に鍼を数か所に刺して(置鍼)、その間に歯科の治療をしていたそうです。

鍼灸治療を組み合わせることで痛みの軽減だけでなく、歯科の治療も早くよくなるため治療成績が向上したといいます。このように、歯科で鍼灸治療を行っているところもありますので、もっと鍼灸院と歯科が連携して治療を行えるようになれば患者さんのメリットにもなると思います。

まとめ

実際は歯の症状に対して鍼灸治療が有効であると知っている患者さんというのは少ないでしょう。しかし、ここでも書いたように鍼灸治療にはさまざまな症状を改善する力があります。ぜひ一度鍼灸治療を受けてみるといいでしょう。



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